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人工関節外来

第二整形外科部長(兼)リハビリテーション科部長(兼)作業療法課長 石川 正洋

はじめに

何歳になっても自分のことは自分でする。できるだけ長く仕事や趣味を続けたい。これらの願いを叶える為には健康であることが大切であり、特に自分の脚(股、膝関節)で歩けることはとても重要です。最近の研究によれば、歩くことが認知症を予防する効果があるということもわかっています。つまり、いつまでも自分の脚で歩けることが認知症になることを防ぐとも言えるでしょう。
特に股関節や膝関節痛があると、これまで当たり前にできていたことができなくなることが多くなります。そして痛みがあれば、旅行や外出するのが辛くなり、家に閉じこもりがちにもなります。そうなると、最終的には介護が必要となり、自立した生活は困難になることが多くなります。即ち、これから来たる高齢化社会において、健康かつ、生きがいを維持する生活を送る為には、脚(股、膝関節)の痛みを減らすことはとても大切です。

股関節について

股関節は負担のかかりやすい関節で、歩くだけでも自分の体重の3倍ほど、階段昇降では6~8倍かかると言われています。よって一旦、軟骨がすり減ってしまう『変形性股関節症』 や『関節リウマチ』の進行期になってしまうと、歩こうとする程、軟骨が擦り減ってしまうという悪循環が起こってしまいます。これに対する治療として、病状が進行していない場合は筋力運動訓練などのリハビリテーションは効果的です。しかし、これらの治療にても効果が見られないような患者さんには、当院では手術(人工関節置換術)を勧めております(図1, 2)。

当院の人工股関節置換術の特徴

人工関節手術において最小侵襲手術というと、皮膚の切る量を少なくした手術を示すものと思われることが多いですが、当院では本当の意味での最小侵襲手術、つまり股関節周囲の筋肉、および関節周囲の組織をほぼ傷つけることなく股関節にアプローチするという人工関節手術を行っています(図3) 。これは前方侵入法による最小侵襲手術と呼ばれています。

前方進入法による最小侵襲手術とは?

この手術は特別な専用の手術器具、牽引台を用いる術式です。これまでの手術法は、どうしても筋肉や後方の組織を切らざるを得ませんでしたが、専用器具を使うことにより、安全に最小侵襲手術ができるようになりました(図4)。
利点は、筋肉を切らないことにより、早くからリハビリを進めることができ、術後の回復も非常に早くなります。また手術後の姿勢の制限も非常に少ないのが利点です。基本的には、術後しばらくすれば自動車、自転車等にも制限はありません。また、ゴルフ、ゲートボール等のスポーツをして頂くことも可能です。

入院期間

海外ではこの手術法により、手術翌日に退院する方もおられます。当院では、基本的には歩行に自信が出てから退院して頂くようにしております。また、退院後の生活に不安がある方の場合は、入院中に外泊して家での生活を体験してみることで不安を解消して頂いたりもしています。入院期間は術前の歩行状態によって変わりますが、平均2週間程です。また当院では基本的には、抜糸のいらない縫合法を採用しています。

手術後のリハビリ

翌日から歩くためのリハビリが始まります。まずはベットサイドに座ることが始まり、歩行器、杖をついて歩く練習をしていきます。理学療法士、作業療法士の先生が各々にあったプログラムを組んでリハビリを行っていきます。

その他の治療法

当院では基本的には前方侵入法による最小侵襲手術を行っていますが、患者さんの各々の状態に応じて(例えば、変形が非常に進んでしまった場合や再手術の場合)最も適したアプローチを用いて手術しています。

膝関節について

近年の報告によれば日本人の約4~5人に1人が膝関節痛を抱えていると言われています。これは軟骨が痛んでくることによって『変形性膝関節症』によって生じることが多いです。また、関節リウマチや特発性膝関節骨壊死という疾患でも膝関節痛が生じます。
治療としては、『変形性膝関節症』の初期は大腿四頭筋と呼ばれる筋肉の強化やヒアルロン酸の関節内注射が有効です。しかし、進行してしまい、これらの治療にても効果が見られないような患者さんには、当院では手術(人工関節置換術)を勧めています (図1)。

当院の人工膝関節単顆置換術の特徴

膝関節の壊れ方が部分的な場合は、この痛んだ部分のみを手術する人工関節単顆置換術を行っております(図2) 。術後の回復が早く、動きが良いのが特徴です。この手術の適応となる方は、手術前から膝の動きが良いことが多く、術後も正座まで出来る人もいます。

当院の人工膝関節全置換術の特徴

一方、膝の多くの部分が傷んでしまった場合は人工関節全置換術を行っています(図3) 。当院では、各々の患者さんに一番適した機種を術前に考慮して選んでおります。そして手術ではナビゲーションシステムを用いており、非常に正確な設置を精度高く行っています(図4) 。

また、術前の状態によっては、オーダメイドの人工関節を作って手術しています(図5) 。これは術前のCT(MRI)のデータから、各々の患者さん専用の骨のモデルと骨切りガイドを3D printingという技術を使用して作成して手術する方法です。ただ、データからオーダメイドの人工関節を作成するのには4週間ほど掛かりますので、データを撮ってからすぐに手術することはできません。

3Dプリンターを用いた人工関節について

当院では、患者さんごとに3Dプリンターを用いてご本人様の骨のモデルを作成しています。それを用いて、各々の患者さんに適した人工関節置換術を行っています。

3D printingによって作成した個々の患者さんの模擬骨

入院期間

股関節の治療と同じく、当院では早く退院して頂くというのではなく、歩行に自信が出てから退院して頂くようにしております。退院後の生活に不安がある方の場合は、入院中に外泊して家での生活を体験してみることで不安を解消して頂いたりもしています。入院期間は術前の歩行状態によって変わりますが、平均1~4週間程です。

手術後のリハビリ

手術することにより、変形していた膝をまっすぐにすることは出来ますが、筋力はすぐには戻りません。特に、人工膝関節の手術は術後のリハビリが重要であり、手術翌日から歩くためのリハビリが始まります。また膝を曲げる訓練も大切です。当院では理学療法士、作業療法士の先生が各々にあったプログラムを組んでリハビリを行っていきます。そして、退院された後も継続して筋力訓練及び関節を動かす練習をすることが必要です。術後しばらくすればウォーキングやゴルフ、ゲートボール等のスポーツをして頂くことも可能です。

担当医より一言

いつまでも自分の脚で歩けることは、認知症を防ぐ観点からも非常に大切です。京都大学病院、及び京都大学リウマチセンターでは関節リウマチおよび人工膝関節置換術を主に担当しておりました。この豊富な経験を基に、皆様が健康かつ、生きがいを維持できる生活を送れるようなお手伝いをしたいと思っております。関節痛のある方は、お気軽に人工関節外来に受診してみてください。また術後不安のある方も遠慮なく、いつでも再診してください。京都大学医学部付属病院での治療を湖北でも提供できるようにと思っております。

その他

2019年12月22日の読売新聞に、変形性膝関節症の症状や治療法について石川医師の記事が掲載されました。

先生、教えて!「人工関節」

2022年12月11日の朝日新聞に、同じく石川医師の記事が掲載されました。

「人工関節置換術」は術後の疼痛が大きく軽減へ。ひざの痛みは早めの治療を。

略歴

  • 2012年 京都大学大学院 医学研究科博士課程卒業(京都大学医学博士取得)
  • 2012年 京都大学医学部附属病院 整形外科 (関節リウマチ、人工膝関節班)
  • 2014年 京都大学医学部附属病院 整形外科、リウマチセンター特定助教 (関節リウマチ、人工膝関節班)
  • 2015年 ロチェスター大学 筋骨格系研究センター、整形外科学講座 博士研究員(留学)
  • 2017年 長浜赤十字病院

受賞歴

  • 2012年 第15回アジア太平洋リウマチ学会(APLAR) Travel grant
  • 2012年 第18回 日本軟骨代謝学会賞
  • 2013年 第20回 欧州リウマチ学会(EULAR): Sonography Course Bursary
  • 2013年 第1回 Japan College of Rheumatology International School選出
  • 2013年 京都大学 Grants for Excellent Graduate Schools for Travel grant
  • 2016年 第6回 Center for Musculoskeletal Research シンポジウム, Randy N. Rosier賞 (USA)
  • 2017年 第63回米国整形外科基礎学会(ORS), ORS New Investigator Recognition学会賞(USA)

世話人

京都大学関節リウマチ症例検討会、京都大学関節リウマチ懇話会、京都大学ゴールドカンファレンス、彦根長浜リウマチ膠原病研究会、滋賀Kneeフロンティア

所属学会

日本整形外科学会、日本整形外科基礎学会、日本リウマチ学会、中部整形外科災害外科学会、日本人工関節学会、日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会 、Personalized Arthroplasty Society expert member

資格等

京都大学医学博士、日本整形外科認定専門医 、日本整形外科学会認定リウマチ医 、日本リウマチ学会登録ソノグラファー、日本人工関節学会専門医、日本リウマチ専門医

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